[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
うちの職場はほぼ女性で占められている。男性はといえば、管理職のおじさん二人だけ
である。(正確には正社員でもう一人いるが、影が薄すぎるので割愛する)
おじさんたちは普段、大多数の女性の中で蟄居し、賑々しくも決してウハウハとは
言えない空気の中で健気に生息している。
それなら今日ばかりは、さぞかし机の上はチョコレートの山が築かれることだろうが、
真の男性よりもだいぶ男前な女性ばかりが勢ぞろいしているので、
渡す側としてこの行事に参加する人口は常に少ない。
ま、そういうのは、若くて社交性のある気の利いた子たちがやればよろしい。
おじさんたちと同じ部署の姐さんたちは、暗黙の了解のうちにスルーを決め込んでいた。
日頃の感謝を表す機会としても活用しない。食い気は人一倍あるので、やっと
手に入れたおじさんのささやかなチョコを、隙あらば逆に奪おうとするくらいである。
今日も静かに日常の業務がスタートした。誰もこの行事のことを話題にしなかったが、
保険会社の外交員が粗品としてチョコを持ってきたので、姐さんYはその袋をバリバリ
剥いて食べ始めた。いくつかあったので隣の席のおじさんGにはついでにあげて
いた。向かいの席のおじさんHにはそれさえもあげた様子がなかったので、私は気を
使ってHのところに持って行った。人からもらったものの転用だが、まあ1粒でもチョコと
名の付くものが二人の手に渡ったので、今年はこれで終了、と勝手にホッとしていた。
その後、例年になく異変が起きた。普段なかよくしている下階の会社から女性が一人
やってきた。そして数人が見ている前で、うちの女子全員からですと、Gにチョコを
渡したのだ。意外な展開に、しばし冷やかしの声が上がった。
その会社は我々のところよりも平均年齢が低い。職人肌で寡黙なGは、動揺と照れの
綯い交ぜになった表情で固まっている。Hは思わず立ち上がっていた。そして、Hの分を
持っている様子はない。
「Hさんにはないの?」
「えへっ、Gさんにはお世話になっているんで」
おっと~~!? この差は何なんだ~~?
さらに冷やかしが飛ぶ。若くてかわいいその子は、微笑みながら去ってしまった。
おぉ~~いい、渡すのはいいが、ちょっとは考えろよ。
Gにしかないんだったら、Hがいない時にしろよ。
Hの方が役職上なんだよ。あんたは立ち去ったらいいけど、フォローすんのは
残された私たちかよ。
しかし、愛想は良くないけど手先の器用なGの方が、チョコを贈るに値すると下階には
認められているようだ。ちと風向きが変わってきたな。
それからは、他部署の人たちが連名で二人にあげに来たり、昼食を買うついでに
コンビニで売っていたのを二人にあげたり、しているのを目撃した。
ああよかった、心ある人が他部署にいて。
そしてそんな様子を微笑ましく見守るも、一向にあげようとしない同部署の我々に、
Hは少し不服を申し立て始めた。Hは人なつこく、支離滅裂な話を投げかけては困惑を
呼ぶのだが、この時も思いつくまま演説をぶった。
「節分の時は豆まきをしたりして季節を感じるものなのだ。今の日本はそういう
季節や行事を大切にしない、バレンタインしかり…」
私は思わず反論する。
「バレンタインなんてチョコを売りたいお菓子会社の企業戦略でしかありません。
土用の丑はうなぎ屋さんの戦略です。季節を感じる行事ではない。節分の太巻きだって
あれはお寿司屋さんの」
「心は形に表さなければ見えない。そういう気持ちが大事なのだ」
私がさらに何か言うと、Hは聞かぬふりをして姐さんFに催促し始めた。
こうなったらますますあげづらい。これ以上、素直にもかわいくもなれない私にはやっぱり
スルーしかない。感謝の意は別の所で表することにする。
しかし、なんだかんだ言ってチョコが集まっているようだから、来年も私からは
要らなさそうだな。大きくせり出たお腹に甘いものはよくないし、上司の健康を
気づかって。
若い子からもらった方が嬉しいだろうしね。
ということで、若い人たち、来年も頑張ってください。

03 | 2025/04 | 05 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 |








